「炎上させる人が多いのは経済停滞にある」

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 世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見を聞く「opinions」。今回の話題は「お水、出しっぱなしで“炎上”」。文筆家の古谷経衡氏に話を聞いた。
 ある女性タレントが、ボディーソープを洗面台で泡立てている動画をSNSに投稿したところ、水道の水が出しっぱなしなっていることに「何で水を止めないの?」などと批判コメントが殺到した。
 コメントではこんな意見が見られた。
「水道代、気にならないのか?」
「人としてどうかと思うぞ」
「わざわざ指摘しなくても…」
――この話題について古谷さんの意見をフリップに書いていただきました。
 「道徳自警団」です。
 今回のこの“お水出しっぱなし炎上”というのでしょうか。これは“道徳自警団”が炎上させていると思いますね。
――これは古谷さんが作った言葉ですか?
 そうです。僕が1年半くらい前に作った造語なんですけれども、これはどういうことかといいますと、普通、悪人といったら犯罪者のことをいいますよね。善人というのは普通の良い人ですよね。それはわかりやすいんですが、自分の家の水を出すか出さないかというのは犯罪ではないじゃないですか。もったいないとしてもですよ。それは、犯罪じゃないけど不道徳であると。これはけしからんということをテコにして抗議の電話やメールを入れたりする。それが“道徳自警団”なんですよ。
 それはタレントさんにだけではなくて、ほかにも不謹慎だ、不道徳だと色んなところに電話攻撃やメール攻撃をして社会がどんどん萎縮していくということです。
 公園に行って公園の水を流しっぱなしにするのは不道徳です。あるいは軽犯罪かもしれない。でも、自分の家なんだからいいでしょ。お金を払うのは自分なんですから。これは犯罪でもなんでもない。倫理観の問題ですよね。
 でも倫理観というのは裁けませんよね。だって犯罪じゃないんだから。裁けないから自分たちでこいつが謝るまで電話してやろうとかね。こういうのはクレーマーに近いですけど、この10年くらいでとても目立ちますよね。
――たしかに重箱の隅をつつくような…なぜこのようなことが増えてきているのでしょうか。
 基本的に重箱の隅をつつくのと、すごく小さな美談とか、うれしさ、喜びを称賛するのって対になっていて同じなんですよ。
 だからこういう人たちというのは、すごく小さなことでも、これは日本人の美談なんだという傾向があるんです。
 それはなぜかというと、97年からデフレ不況が20年続いていますよね。経済成長していないワケです、基本的に。
 自分の財布がどんどん増えていったら、他人の不謹慎とか不道徳とかはどうでも良くなってくるんです。だって家が新しくなっていって、家電が増えていったら、そっちのほうがいいじゃないですか。
 ところがいまの経済成長が続いていない時代、要するに、今日もあしたもあさっても変わらない時代だと、小さいことにものすごく興味を持つ。悪い意味で興味を持つということですね。
――不況だと“道徳自警団”が増えるということですか。
 増えます。つまり中世の世界がそうでしたよね。ちょっとしたことで魔女だとして魔女狩りをするとかね。
 これは日本が停滞している、経済停滞の申し子だと思います。