刑罰を科せられるとわかっていてもやめられない依存症もあります。一番わかりやすいのは違法薬物ですが、それだけではありません。物を盗みたいという衝動や欲求を抑えられないクレプトマニア(窃盗症)や、法にふれるリスクを冒しても性犯罪を行う性嗜好障害(痴漢や盗撮など)も疾病です。
法務省が全国の刑務所及び拘置所の被収容者などに関する統計資料を集計した2021年の矯正統計調査によると、入所者の中で窃盗、薬物事犯、性犯罪の合計が半数を超えます。もちろん、これらの犯罪で服役している全ての人が依存症とはいえません。しかし、受診をすれば依存症と診断される人が多いのではないでしょうか。
ここで考えなければならないのは、依存症は疾病なので刑罰では治せないということ。誰かに損害や危害を加えたら罰せられるのは当然ですが、犯罪者として扱われる恐れから、治療を受けずに重症化させてしまうケースも少なくありません。再び同じ罪名で入所する人の割合は、窃盗と薬物事犯で8割近くにのぼっています。このことから、刑期を終えてもケアをしっかり行わなければ、何度も同じ罪を繰り返す可能性が高くなるのです。つまり、犯罪へと突き動かしているのが依存症という事実に気付かないと、本人はもとより社会全体にとっても大変不幸なことといえます。
【出典】『短時間でしっかりわかる 図解 依存症の話』
大石雅之 著