Uber配達員がコロナ禍で体感したディストピアとは? 劇場で見たい映画「東京自転車節」

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朝日新聞社

bouncy / バウンシー

映画「東京自転車節」が、コアファンを掴んでいる。青柳拓監督がコロナ禍の東京で、自転車配達員として悪戦苦闘する姿を自らの撮影で描く。躍動感と疾走感にあふれる自撮りドキュメンタリーだ。笑って楽しめる作品に仕上げながら、社会問題も鋭く投げかける。
物書き女性に勧められて
筆者がこの映画を知ったのは、とある物書き女性からの紹介だった。雑談をしている最中、突然、この映画の話になった。彼女のテンションが上がり、口調に熱気が帯びた。
「絶対気に入る映画だよ。ぜひ見て!」
僕の映画好みも踏まえての、推しだった。熱心な売り込みを信じて、それからしばらく後に視聴した。
確かに彼女のいう通り。新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された日本社会の一断面を、鮮やかに切り取っていた。大いに気に入った。青柳監督のインタビューを核に、bouncyで紹介動画を作ることにした。
「虫の目作戦」の仕掛けの上手さ
短尺動画のインタビューで、青年監督は四苦八苦だった。何度も何度も、同じ質問へのテイクを重ねた。動画の構成上、多くをカットしなければならなかったが一部は残している。ぜひ動画も御覧頂きたい。
記事では、作品の魅力分析を試みる。僕個人の考えとして、三つのポイントを提示する。
一つ目は、Uber Eats配達員として東京の街を走るという仕掛けの上手さ。
ある一つの物事を捉える時、虫の目と鳥の目が有効だとされる。ようは地べたを這うか、グッと引いた視点に立つか。中途半端な位置にいると何も見えない。
今回、青柳監督は「虫の目作戦」を敢行した。そうして東京各地を自転車で走り回った景色を、我々に見せる。
初の緊急事態宣言が出て人通りが少ない街並みが出てくる。「あー、あの時はステイホームしていたな」「たまに出かけても、人いなかったな」。2020年3月から続いたコロナ禍の東京を追体験できる。
スマホ+GoProで撮影
二つ目は、Uber Eats配達員となった仕掛けを最大限に生かす撮影方法。
スマートフォンとアクションカメラ「GoPro」で撮ったという。ファストフードやタピオカドリンクを配達する姿を、自撮りしている。配達員の仕事ぶりの一部始終が分かる。
「ウーバーイーツです」と名乗り、お店に入る。品物を確認して受け取る。雨にも風にも負けず、自転車をこぐ。玄関先に「置き配」するか、配達先の人に手渡する。これで、一つの仕事が終了となる。この積み上げで、日銭を稼いでいく。
これら二つのポイントを、細かいカット割りの編集で生かしている。映画は躍動感と疾走感に満ちている。
この記事の読者に、「映像酔い」をする方はいないだろうか。筆者は乗り物も含め、かなり酔いやすい。配達の様子を長く見ていると、ほんの軽くだが酔った感覚になった。
心当たりのある方は、ご注意頂きたい。
青柳監督のキャラ
三つめは、青柳監督のキャラクターの良さ。
視聴者は青柳監督の姿を、93分間の長きに渡って眺めることになる。しかも、その様子は楽しんでいる姿ではなく、苦しんでいる姿だ。
カメラのレンズは、人間性をむき出しにする。映像に映された青柳監督のキャラが悪かったら、この映画は成り立つだろうか。嫌な、腹黒い、こすっからい奴だったら、映画を見続けられない。
青柳監督は東京で過ごす時間が増えても、地元・山梨の空気感をまとったままだ。おっとりした口調で、次のセリフを口にする。
「きついよ。雨の中、もう大変だなこりゃ、ほんと仕事としては」
「きついよ」と漏らすのだから、しんどいことは間違いないが、そこまで悲壮感がない。そして、毒気も感じない。
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コロナに翻弄された過去1年半の振り返りとしても、笑えるコメディーとしても味わえる。そんな「東京自転車節」で、今年の映画デビューを果たすのもいいのかも!
くれぐれも、感染対策は念入りに。