青木さやかさんがLINEで綴った『厄介なオンナ』 かつての「キレ芸」と真逆の優しいエッセイ創作秘話とは?

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朝日新聞社

bouncy / バウンシー

トークの途中で突然怒る「キレ芸」キャラで人気となった、タレントの青木さやかさん(49)。近年は執筆活動に力を入れており、2022年3月にはエッセイ2冊目となる『厄介なオンナ』(大和書房)を出版した。その文章は、不躾な「キレ芸」と真逆の優しさと気遣いにあふれている。「書くことが一番自分を表現できる」という、青木さんに創作への意欲を聞いた。
ならではの文章で
『厄介なオンナ』は、日常生活を綴ったエッセイ。「料理」は「娘が好きな」レシピ付きで紹介。お気に入りの「ハワイ」に言及し、「人生で最高の映画」を語る。定番とも言える、「恋愛」「オトコ」の項目も。
青木さんはインタビューで、「芸能界にいて、非常に生きづらさを感じていたし、繊細でもあった。今もそうなのですけど」と明かしている。
そんな「繊細さん」ゆえに、青木さんが書く文章には根底に優しさと気遣いがある。そして、生きづらさを抱えている分、物事を捉える視点に独自性を持つ。さらに芸人としての経験も活かし、時に笑いをうまく混ぜてくる。
「定番」項目であっても、青木さんならではの文章に仕上げて読ませる。
「容姿いじり」
エッセイ項目の中には、青木さんでなければ成り立たないテーマもある。最初に出てくる「容姿いじり」が代表例だ。
筆者は46歳で、青木さんと同年代。約20年前、「どこ見てんのヨ!」のギャグで、一世を風靡した姿を知っている。テレビのチャンネルを回すと、青木さんがいつも居て、大声で叫んでいた。「容姿いじり」を受けた青木さんを見て、笑った記憶もある。
近頃、ルッキズム(外見至上主義)という言葉が広がってきた。それに伴い「見た目だけで判断する、見た目をとやかくいうのはどうか」との考えが、共有されつつある。
浸透度の高い言葉で
しかし、青木さんが最もテレビに出ていた頃は、「芸人なら何を言っても許される」の風潮だった。芸能界だけでなく、お茶の間の視聴者の多くも、何ら違和感を抱かなかった。
青木さんは傷つきながら笑いを取っていたが、容姿をいじる相手に「止めて下さい」と言わなかった。「扱いやすい女芸人でいたかった」からだ。
今ならば、完全にアウトだ。当事者の青木さんならば、配慮に欠けた先輩芸人を糾弾し、無神経だった視聴者を責めることもできよう。
ところが、青木さんはそうしない。声高でなく、じんわりと感情を抑えながら、言及していく。ルッキズム論のように頭ごなしに正論をぶつけられる形でない分、言葉の浸透度は高い。
インタビューで、青木さんは読者が「心地いい時間になるように」書くようにしていると話している。機微にふれる「容姿いじり」のテーマで、それを成り立たせているのは実に見事だ。
依存症の告白記事に注目
筆者が青木さんの文章に注目したのは、「婦人公論.jp」のサイトがきっかけ。2020年夏、青木さんがギャンブル依存症を告白する記事を読んだ。タイトルは「パチンコがやめられない。借金がかさんだ日々」。
テレビで知っていた青木さんがパチンコ依存になっていた事実に驚いた。と同時に、率直な気持ちを、無駄な飾り言葉を交えずに綴る文体も気に入った。
同じ感想を抱いた人も多かった。この記事は、掲載サイトで2020年に読まれた記事「エンタメ」部門の4位にランクインしている。
驚くスマホ執筆
それにしても驚くのが、書籍1冊をスマホで書き上げていること。LINEでマネジャーや担当編集者に送付する形式で、文章を積み重ねるという。「パソコンがほとんど使えず、手書きは時間がかかる」ことが理由だ。
数百字の連絡なら分かるが、エッセイ1本となると1千字は超える。書籍全体となると数万字。慣れてはいるのだろうが、執筆スタイルとしてはかなり珍しい。
今年だけでも、他にエッセイ1冊と小説1冊の出版予定があると聞いた。文字量の効率だけでいうと、LINE執筆よりもPCが勝ることは間違いない。ただし、青木さんはスタイルを変える必要はないだろう。
すき間時間をいかし、最短30分でエッセイ1本をまとめられる。この早さは、スマホ執筆に向いている。
また、青木さんが実践している書いた文章を1、2カ月、寝かせつつ推敲を重ねる場合にも有効だ。気になった時にさっとスマホに目を通す方が、変な気合いが文章にこもらない。