声も歩行機能も失った男が変える未来。WITH ALS「MOVE FES.2021」

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朝日新聞社

bouncy / バウンシー

テクノロジーは人を輝かせるーー。12月9日夜に開かれた「MOVE FES.2021」を現地取材して抱いた感想だ。渋谷TRUNK(HOTEL)の会場には最終盤、赤と白などの灯りが点滅した。それは、このフェスがテーマに掲げた「希望の光」を見事に具現化していた。
bouncyとご縁のある武藤さん
開催したのは一般社団法人「WITH ALS」。ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、全身の筋肉がだんだん痩せてなくなる進行性の難病だ。自身もALSの闘病を続けている武藤将胤(まさたね)さんが代表を務める。同法人は「ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるボーダレスな社会を創造することをミッションとして活動する団体」だ。
武藤さんを記憶している、読者も多いのではないだろうか? 今年8月に開かれた東京パラリンピックの開会式でデコトラの先頭に乗っていたことで話題となった。
さらに、この原稿を読んでいるbouncyファンならば、bouncyとのご縁を覚えているのではないか? その5カ月前となる今年3月30日、武藤さんはオンラインイベント「bouncy Lab.」に登壇している。
ALS患者で喉の手術を受けて発話が難しい武藤さんだが、イベントでは他の登壇者たちと同様に発言していた。テキストを視線入力し、喉の手術前に録音しておいた自分の声と合体させて読み上げる。テクノロジーの進化が可能にした会話方法だった。
当時、筆者はイベントの記事を素早く仕上げるため、自宅で視聴していた。画面向こうの武藤さんの姿に驚くと同時に感動を覚えた。
フェス開催日の前日の8日午前、同僚から「一緒に行きたい人はいますか?」と編集部一堂に案内があった。内容をチェックすると、武藤さんも登壇予定。仕事はかなりアップアップ気味だが、迷わず手を上げた。
黒夢ボーカル・清春さんなど多彩なゲスト
2016年から続けてきたフェスは昨年、新型コロナウイルスの影響で中止した。2年ぶりの開催で、広報担当によると「来場チケットは早々に売り切れました」。期待のほどが分かる。
武藤さんがプロデュースしたフェスは、ゲスト陣も多彩だ。アーティストの代表格が黒夢のボーカル・清春さん。フェス開催にあたり実施したクラウドファンディングのサイトには「ALSの未来への可能性を信じ、切り拓こうとする彼(筆者注・武藤さん)の信念と在り方を心からリスペクトしています」とのメッセージを寄せている。
この日はステージの後、武藤さんとコラボして作ったジャージセットアップを披露した。素材にはストレッチ性が高く肌触りの良いものを採用。パンツはウエストから裾下まで全開できる仕様だ。体が不自由な人でも着やすいようにと工夫している。
カラーは赤と黒の2種類。会場で実物を手にした筆者も「実にスタイリッシュ」と感じた。
回線向こうのMASAさんとの交流
中盤には「ALS TALK SHOW」もあった。武藤さんと一緒に「bouncy Lab.」に登壇した吉藤オリィさんらが、ALSを取り巻く様々な活動を紹介した。
吉藤さんは、分身ロボット「OriHime」の開発者として知られる。今回は会場入口にそのOriHimeが接客する「ROBOT POP-UP STORE」が設けられた。
筆者が可愛らしいOriHimeに話しかけると、回線の向こう側からMASAさんが応じた。MASAさんは、生まれつき脊髄性筋萎縮症を患っていて、寝た切り状態だ。
しかし、元気な声で展示商品の説明をしてくれるため、MASAさんに重い障害があるとはとても思えない。
画面に出ているマサさんの紹介プロフィールには、次のようにある。
「2018年に開催された第一回分身ロボットカフェでOriHimeと出会い、以来分身ロボットカフェパイロットとして働いています」
MASAさんに、この3年間で何か変わったことがあるか聞いた。
「寝たきりのため、福祉関係者や看護師、ヘルパーさんにお世話になることが多く、外に出ての新しい出会いは少なかったです。OriHimeのお陰で仲間や友達を増やせ、アパレル店員をさせてもらえています。世間が広くなり、楽しく過ごせています」
こう語るMASAさんの声は弾んでいた。OriHimeの手を上下させている目は、輝いているに違いない。