虐待トラウマ"癒えぬ傷" 日常生活でフラッシュバックも「言いたくない」心の壁や少ない専門家 治療にハードル 新生活不安も

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子ども時代の虐待は体だけでなく、心にも傷を残し、その後の人生にも大きな影響を与えます。
 治療の現場から、虐待の後遺症と、心のけがを癒す難しさが見えてきます。
 札幌市・豊平区にある「南平岸内科クリニック」。
 野呂浩史院長は子ども期の虐待などでトラウマを抱えた人たちの治療を行っています。
 「(特徴は)相手に対する不信、圧倒的な自己肯定感の低さ。虐待は1回、2回ではなく長期反復して、心の傷になり、さらに複雑化しやすい。心の傷が癒えていないから、きっかけや同じシチュエーションで、閉ざしていた傷やトラウマの体験がフラッシュバックなどのかたちで出てくる」(南平岸内科クリニック 野呂浩史 院長)
 虐待の長期間にわたる恐怖の体験は心の傷となります。
 大人になっても日常生活でフラッシュバックを起こしたり、感情のコントロールができなくなる複雑性PTSDのほか慢性的なストレスからくるうつ病、不安障害などを引き起こすといいます。
 関東に住む大学生のゆうさん(仮名)。
 複雑性PTSDと診断されているほか、突然のパニックもあります。
 幼いころから父親からの身体的な暴力や祖母からの暴言などを受けてきました。
 「(父親は)長時間、正座させて布団叩きで叩くとか、(祖母は)深夜とか明け方まで大きい声で怒り続けたり」(ゆうさん)
 厳しい家族のもとで家事を担い、精神的に不安定な母親のケアも引き受けてきました。
 「(きょうだいでは)私が一番聞き分けがよかったので、学校ない日の昼ごはん作ったり。(祖母が)爆発したときは、作った料理を捨てたり、投げたり。お母さんが不安発作を起こすと、目の前で自傷行為をしはじめる。それもすごくしんどかった」(ゆうさん)
 学校に相談したことが分かったら、さらに虐待がひどくなることが心配で、話すことができませんでした。
 小学5年生で自殺未遂。
 高校生では学校で大量の薬を飲むオーバードーズも繰り返しました。
 「こんなしんどいなら生きている意味ないなと思ったりして。一日一回は真剣に死ぬことを考えるんです」(ゆうさん)
 アルバイトでお金を貯め、大学に進学。
 一人暮らしを始めました。
 今も料理していると、作った食事を祖母に捨てられた記憶がよみがえってしまいます。
 「途中で嫌になって作った料理や食材を捨ててしまって、小さいころされていたことを再演している」(ゆうさん)
 支援団体が虐待サバイバーおよそ700人を対象に行った調査では、精神科の受診歴がある人が8割以上にのぼりました。
 しかし、大半はトラウマの専門的な治療に結びついていません。
 札幌でトラウマ治療を行っている野呂浩史医師。
 専門医が少ないほか、保険適用がされない治療は費用が高額になること、さらに患者にも精神的な負担が生じるなど治療へのハードルはいくつもあるといいます。
 「長期にわたるフォローが必要で、医療サイドからするとコスト的な面や、対応できるスタッフの育成が国内でも不十分です。こちらが虐待に気づいたり、情報があったりしても『先生、その話題は避けてください。眠れないから来たんです』と患者さん自身が虐待の話題を避けることも多いです」(南平岸内科クリニック 野呂浩史 院長)
 ゆうさんは勉強を重ねて、国家資格の精神保健福祉士に合格。
 自分と同じように苦しんでいる人に寄り添いたいと考えています。
 4月からは病院で働くことになりました。
 しかし…
 「就職するにも保証人が必要なんですよ。親族でないとダメみたいなところが結構あって」(ゆうさん)
 実家とは連絡を断っているため、就職する際に必要な保証人がいません。
 「(心が)折れます。『あ、そっか…』みたいな」(ゆうさん)
 働くことができるのか心配です。
 今の願いは一つです。
 「大きく調子を崩さずに平穏な生活が送れるのが一番だなと思います」(ゆうさん)
 「日常の中での嬉しかったことを、報告してもらえるような精神保健福祉士になりたいです」(ゆうさん)
 今も癒えない心の傷を抱えて迎える、旅立ちの春です。