「被災した子どもたちのために」 ピエロになった校長の思い

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「ピエロさ~ん」
 岩手県岩泉町のこども園。ホールで待つ約40組の親子連れが、うれしそうに呼ぶ。
 でも、意地悪なピエロはすぐには登場しない。司会に「あれ? 聞こえなかったのかな? もう一度大きな声で呼んでみましょう」と語らせ、子どもたちが大声で叫ぶのを待つ。
 「ピエロさ~ん!」
 その瞬間、生真面目な教育者の顔がピエロへと変わり、笛を吹きながらホールの歓声の中へと飛び込んでいく。
 佐藤敦士さん(57)。同県花巻市の花巻北中学校の校長だ。でも、ホールでは堅苦しい管理職の面影はない。子どもたちの前でお尻を振って踊り、手品で魅了したかと思うと、突然ハットの中からウンチのおもちゃを取り出し、子どもたちを追いかけ回す。
 2011年3月11日は県教育委員会に勤務し、盛岡市内にいた。津波で沿岸部が壊滅していく映像をテレビで見ながら、ただ立ち尽くすだけだった。子どもが好きで教師になり、沿岸部の岩泉町、田野畑村、宮古市に計8年間も勤務したのに、彼らの力になれないことが狂おしかった。
 「被災した子どもたちのために何かできないか」。沿岸部に支援物資を届けながら、4月下旬、避難所の子どもたちを訪問して絵本の読み聞かせを始めた。週末の度に沿岸部の避難所などに通っていると、ある支援団体がピエロのパフォーマンスで子どもたちを楽しませているのを見た。
 「これだ」。6月からは「くらうん・しゅがー」と名乗り、ピエロの格好をして避難所を訪れるようになった。絵本の読み聞かせの合間に手品をやったり、趣味のウクレレを演奏したり。子どもたちが笑ってくれる、ただそれだけのことが、うれしかった。
 あれから10年、今もピエロ姿で子どもたちの前に立つ。コロナ禍でしばらく活動を自粛していたが、昨夏、感染防止策をとりながら再開した。
 読み聞かせの最後は風船で刀を作り、子どもたちとチャンバラごっこに興じる。佐藤さんは子どもたちに囲まれ、風船の刀でバシバシとぶたれる。
 サーカスでのピエロの表情は「泣いているようにも笑っているようにも見える」と言われる。舞台を全力で駆け回り、汗で化粧が落ちかけた佐藤さんの顔も、子どもたちに囲まれて「うれし泣き」しているように見える。(三浦英之)