濁流が流した写真に2年ぶりの再会、水害被災の長野で広がる笑顔

朝日新聞社

朝日新聞デジタル

災害は家族の思い出の品も奪う。結婚式、七五三の晴れ着姿、先祖の遺影……。泥にまみれた大切な写真が、元通りになって持ち主のもとに戻されている。長野市を流れる千曲川の堤防が決壊した水害から2年、被災地で今、小さな笑顔が広がっている。
 「あっ、これ、うちのだ。おばあさんの写真……」。渡辺章司さん(54)が、土をかぶったアルバムをめくる手をとめ、つぶやいた。今月2日、長野市長沼地区で持ち主不明の写真を並べた催しがあり、近くに住む渡辺さんも妻の美佐さん(54)とやって来た。
 一昨年の10月13日未明、台風19号による大雨で市北部にある長沼地区の千曲川堤防が決壊。流れ込んだ濁流は、全壊502棟、大規模半壊77棟という大きな被害をもたらした。堤防から約200メートルの場所にあった渡辺さん宅も、母屋と土蔵が全壊し、1階の家財道具は全てどこかに流された。
 2年ぶりに再会した写真には、103歳まで長生きした祖母の笑顔が写っていた。若い頃の水着姿の母や、勤務する会社で渡辺さんが米国に駐在した頃の写真も。アルバムをめくるたび、自然と笑みがこぼれた。
 水害の直後、地区全体を覆った甚大な泥とがれきは、全国各地から集まった延べ約8万人のボランティアの助けで撤去された。作業中に次々見つかったのが、家々から流れ出た大量の写真だった。ボランティアの活動拠点に積み上がっていたその写真を、無償で洗浄し、元通りにする取り組みがその年の12月から始まった。
 手がけたのは名古屋市のNPO法人「アイキャン」。当時メンバーだった杉田威志さん(40)らが中心となり、委託の形で昨年10月から長野県社会福祉協議会が引き継いだ。今は、長野市内の公民館で平日にほぼ毎日、地元の民生委員ら数人が作業をしている。
 まず泥だらけのアルバムを乾かし、1枚ずつ手作業で台紙から写真をはがしていく。次に湯につけて汚れを落としやすくし、ウェットティッシュで拭き取る。干して乾かし、エタノールで消毒すれば完了だ。
 これまでに洗浄を依頼された写真は約3万枚。作業に加わっている笹森裕佳さん(50)は「何かできることで力になりたかった」と話す。杉田さんは「写真は被災者にとって大切な思い出。時間も経つ中で、写真は災害を伝えるものにもなっている」という。
 2年前の水害で、被災地では今も、みなし仮設住宅などで暮らす人がいる。
 自宅脇の小屋で生活してきた渡辺さんも先月、やっと母屋の改修が終わった。「生活を元に戻すために、これまでずっと休みなく動き続けてきたので、この2年はあっという間だった。家族の大切な写真が戻ってきて、うれしい。前進できたかな」。見つかった写真の洗浄を託していた。