瀬戸内のマダコは美食家 伝統のたこつぼ漁に同行

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瀬戸内海でとれるマダコはほのかに甘い。ワタリガニやシタビラメ、二枚貝のタイラギといった魚介をエサにして育ち、ひと味違ううまみを蓄えている。
 「高級なものを食べて、ぜいたくですよね」。香川県丸亀市沖の手島周辺で、先代から続く「たこつぼ漁」を営む庄司尉晶(やすまさ)さん(53)がそう言って笑う。
 たこつぼは古くは陶器製、今はプラスチック製で、海底に沈めたつぼの中にタコが入り込んだところを捕獲する。物陰に潜むタコの習性を利用した手法だ。夏は身の食感が強く、冬になるとやわらかく、より甘みのあるタコがとれるという。
 8月下旬、庄司さんの漁に同行させてもらった。つぼ約180個をロープでつなぎ、全体で8メートルほどの仕掛けを海中へ。同じように仕掛けを周囲10カ所ほど配置し、つぼを引き揚げてタコをとっては、また沈め、タコが入るのを待つ地道な作業を繰り返す。
 8月はタコの繁殖期で、体長が平均60センチほどと言われるマダコのサイズがひときわ大きくなる時期だという。
 漁でとれたタコを庄司さんに食べさせてもらった。内臓を取り除き、塩でしっかりともみ洗いし、汚れとぬめりをとる。吸盤に付いた汚れも丁寧にブラシで洗ってから、10分ほど塩ゆでしてから薄切りし、「タコ刺し」にした。身はやわらかく、磯の香りが鼻に抜ける。その後感じる吸盤のこりっとした歯ごたえが癖になる。
 続いて、香川の郷土料理として古くから親しまれてきた「タコ飯」もいただいた。生のままぶつぎりにした身を、しょうゆや酒、みりん、砂糖に漬けて味をつけ、白米とともに炊き込む。甘辛い味が染み込んだご飯とタコの食感の相性は抜群だ。箸が止まらない。
 庄司さんのおすすめの食べ方は、しめたばかりのタコを生のまま刺し身にする「生タコ刺し」だ。一大漁場がある香川でこそ楽しめる新鮮な味だが、近年は漁獲量の減少や小ぶりなタコの増加で食べられる機会が減ってきているという。
 香川県のタコの漁獲量は全国でも上位だが、減少の一途をたどっている。県水産試験場によると、この20年で漁獲量が最も多かったのは2008年の2858トンで、現在の5倍ほどあった。瀬戸内海の栄養塩の不足などにより、エサになる魚介が育ちにくくなっていることが減少の一因と考えられるという。
 漁師たちは保全にも心を砕く。たこつぼ漁で使うつぼには、入り口に弁などが設けられていない。一度つぼに入ったタコが、次の引き揚げまでの間に、そこから逃げていく可能性もあるが、織り込み済みだ。
 「タコをとりすぎてしまうことを防ぐには良い漁法。時代に合っている」と庄司さん。小ぶりなものや、つぼのなかで卵を産んでいるタコは、そのまま放流するという。「香川のタコは全国に誇れる。絶えることはあってはならない」