日本一の看板守れ 梨の生産現場でスマート農業 実証実験始まる

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【千葉】生産量日本一の梨の生産現場が抱える問題を解消しようと、県はロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用した「スマート農業」を導入するための実証実験を始めた。重労働となる収穫時の負担軽減、病害虫防除のための農薬の使用低減などにつなげたいという。
 JR市川大野駅に隣接するヤマニ果樹農園(市川市)。高台にある約1ヘクタールの梨園では8月から10月初旬まで8種類の梨が収穫されている。この収穫作業に今年、大きな変化があった。「ロボット作業車」の導入だ。
 「追従開始」のボタンを押すと、車の前部のセンサーが収穫者を認知。収穫者が動くと数メートル間隔を空けて後を追い、足を止めると自動停止する。梨の実を満載すると約20キロになるケースを7個積み、軽々と運ぶ。斜度15度程度の上り下りも自在。1回の充電で8時間稼働する。
 9月中旬、収穫の中心となる「新高」は1玉500~600グラム。以前は肩に提げたかごがいっぱいになるとその都度手押し式の運搬車まで運んだ。梨棚は低いところだと150センチ程度。運搬車までは中腰のきつい姿勢での移動だったが、ロボット作業車の導入で移動にかける労力は減らせるようになった。
 同農園を家族らで経営する板橋俊治さん(63)は「手押し運搬車は地面がぬかるむと動かすには一苦労だったが、ロボット作業車だと倍近く運べる。体への負担は間違いなく楽になった」と話す。
 また園内には、通信機能を備えた「気象センサー」を数台設置。気象庁のアメダスでは分からない微細な気温や湿度の変化を自動測定する。データは天気予報と組み合わせ、農薬散布や収穫の適切な時期を予測する。「確実に農薬を使う量は減らせる。実割れなどで廃棄する割合も少なくなるだろう」(板橋さん)
 今後は、ロボット作業車上部にカメラを搭載し、園内全体の梨の生育状況を定期的に自動撮影。そのデータをAI(人工知能)で解析する。農家が感覚的に把握していた生育状況を客観的なデータとすることを目指す。また作業車が自動で集荷施設まで往復する機能も検討している。
 これらの技術導入は、県が今年度からスタートさせた実証実験の一環だ。板橋さんが成田市内に持つ農園と合わせ、計2ヘクタールの梨園で2年かけ、労働時間の軽減や体への負担量、収穫量の変化を記録する。農協、NTT東日本、農業ロボット開発ベンチャーのアイ・イートなどと共同事業だ。
 きっかけになったのは、梨生産を取り巻く環境の変化という。
 県内の梨の収穫量は3万400トンで全国1位(2018年度)。だが、20年前から比較すると3割近く減っている。農業従事者の高齢化に伴い、栽培戸数はこの間に約4割減少しているためだ。
 温暖化や都市化も影響している。生育時期が早まり、実の糖度は上がる一方で、傷みやすくなっている。実が割れるなどの被害を起こす「黒星病」の発生予測も難しくなり、その防除のための農薬の散布量を増やすことにもつながっているという。
 実証実験の中心となっている県農林総合研究センターの桑田主税室長は「安定して高品質な梨を生産するには、効果的な技術の継承、気象災害や温暖化などへの対応、経営規模の拡大が欠かせない。そのためにも、データは生産者で共有したい」と話す。
 ただ、普及には課題もある。ロボット作業車の価格は1台約350万円。同農園での実証実験では計4台を導入している。実験では補助金があるが、「これだけの負担をして導入する農家は現段階では少ないと思う」(同センター)。
 梨栽培特有の条件もクリアが必要だ。枝を固定したり、鳥獣害保護のネットを張ったりするため、梨園は全面にワイヤを張っている。ワイヤの金属が影響するため、通常だと自動運転技術で中心となるGPSが使えない。地上へのセンサー設置でも対応できるが、コストはかさむという。