鉄道職員支えた味 惜しまれ閉店へ JR多度津駅の食堂

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JR四国の多度津駅の構内食堂(香川県多度津町栄町3丁目)が3月末で閉店することがわかった。乗務員や駅員らのための「社員食堂」だが、予讃線と土讃線が交わり、四国の鉄道発祥の地とも言われる拠点の駅構内にあり、鉄道ファンや地域住民にも長年愛された。JR四国は建物の老朽化が理由と説明しているが、関係者からは惜しむ声が上がっている。
 食堂は駅舎の隣にあり、JR四国が所有する倉庫を活用して営業している。4人がけのテーブルが六つあり、入り口付近には料理のおかずがずらりと並ぶ。昔ながらの大衆食堂の雰囲気だ。かつては別の場所にあったというが、15年ほど前から現在地に移転してきたという。
 現在はコロナ禍で一般客は減っているが、それでも1日平均で朝食時に20人、昼食時に50人、夕食時に10人ほどが利用している。半分以上はJRの運転士や車掌、駅員、近くの車両工場の職員という。夜勤の職員のため、予約制で弁当も用意している。
 昼食の営業が始まった午前11時過ぎ、早くも制服姿のJR職員らが姿を現した。運転士や車掌はまず、入り口の棚にかばんと制帽を置く。13年前から食堂を切り盛りしている店長の高田芳紀さん(63)は、一人ひとりに「寒いね」などと気さくに声をかける。常連の職員のご飯の量は頭に入っており、時には依頼を受けてホームまで弁当を届けることもあるという。
 昼食のメニューは日替わりのみで、一食500円。一番人気は水曜のカレーライスで、火曜はオムライス、木曜は唐揚げ、金曜は魚料理などと決まっている。高田さんは「最初は試行錯誤したが、お客さんが短時間に集中するし、待たせられないので、今の形に落ち着いた」と話す。
 兼業農家の乗務員が野菜や米など食材を持って来てくれることもあった。「みんなに助けられた。あと5年ぐらいはやりたかった。利用者からも続けてほしいという声があり、個人的には閉店は残念だ」
 10年以上利用しているという運転士の松岡伸志さん(64)は「乗務員はこの駅で交代することが多い。時には勤務が深夜、早朝にわたる不規則な仕事だけに、弁当など無理を聞いてくれて助けられた。なくなるのは寂しいし、不便になる」と惜しむ。
 JR四国の社内アンケートでは、高松、多度津の運転所(区)や車掌区、多度津駅の職員の7、8割がこの食堂を利用していたという。安さや家庭的な味を求めて、近くの町役場職員や高校教員らも姿を見せる。
 食堂の裏手には、れんが造りの給水塔がある。国の登録有形文化財に指定されている、この大正期の建造物などをカメラに収め、食堂にも立ち寄る全国各地からの鉄道ファンも後を絶たない。乗務員と一緒に食事できることも魅力になっているという。
 JR四国によると、食堂のある倉庫は築90年以上で、昨年1月の突風で屋根瓦が飛ばされたのを機に調査したところ、予想以上に老朽化が進んでいたという。勤労課の新延秀信副長は「多くの利用者がいるが、補修には多額の経費がかかり、代替の建物もみつからなかった。コロナ禍で社の経営環境は厳しくなっており、やむなく閉店を決めた」と話している。
 一方、長年愛用している高松市の鉄道カメラマン坪内政美さん(46)は「鉄道で旅する人にとっては全国でも有名な食堂で、鉄道員と地域を結ぶ貴重なコミュニケーションの場にもなっている。何とか存続への道を探ってもらいたい」と願っている。