「なぜ笑った」 阿部一二三、初対面で村田諒太に聞いた

朝日新聞

朝日新聞デジタル

 柔道男子66キロ級で来年の東京オリンピック(五輪)出場をめざす阿部一二三(22)=パーク24=が「憧れの人」を訪ねた。ロンドン五輪で金メダルに輝いた世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王者の村田諒太(34)=帝拳=だ。東京五輪延期が決まる前の3月上旬、阿部は村田に初対面すると、聞きたいことがあふれ出てきた。
「再戦に勝つことは簡単だ」村田の真意
 男子66キロ級の五輪代表争いは、阿部と昨年の世界王者の丸山城志郎(26)=ミキハウス=が一騎打ち。1枚の五輪切符を巡って激戦を繰り広げている。阿部は「過去に7回も戦い、お互いに良いところも悪いところもわかっている。なかなか(丸山を)投げられない」と打ち明けた。村田が以前の講演で、「同じ相手と対戦して勝つことは簡単だ」と話していたのを覚えていたからだ。
 村田は再戦に強い。アッサン・エンダム(仏)に対しては初対戦で判定負けしたが、2戦目に破ってWBA王者に。ロブ・ブラント(米)にも初対戦で王座を奪われ、2戦目にTKO勝ちで王者に返り咲いた。
 村田は自身の体験から「自分の悪い部分が見えているなら修正は簡単だと思う。直すべきところがわからないと難しい」と指摘。その上で「7回も対戦していると(丸山に勝つには)相手の予測の範疇(はんちゅう)を超えないといけないんでしょう。そうであれば、体の反応を鍛えることが大事になってくる。相手の対策を立てる練習は、もう意味がない段階なのかな」と応えた。
 村田は考えて練習をする時間がある一方、スパーリングになれば考えない。「なるべく脳をシンプルにして、いかに練習で試合と同じ状況を作れるか。対策も必要だけど、人間は『無』の状況が強い。試合中、相手の動きに反応して『こっちでいこう』と、ひらめくことができる状態がいい」と助言。自身は、スパーリング前や試合当日の朝、頭の中を無の状態にするために瞑想(めいそう)の時間を取っているとも明かした。
試合前の笑顔 村田の決別
 村田の試合を生観戦したことがある阿部には、気になることがあった。「試合前に村田さんが笑っていた。あそこまで僕はリラックスできないから」。試合前の笑顔が印象的だった村田も、最近はゴングが鳴る前の表情に変化があるという。「昔は緊張をごまかそうと笑っていた。でも、今は必要ない。笑えない状況なのに笑うという行動は、自分の感情がケンカしている。緊張しているならそれを認めた方がいい」
 村田の言葉を聞き、阿部には納得できるところがあった。昨年11月のグランドスラム大阪。丸山が優勝したら、東京五輪代表の座は丸山に決まる大会だった。緊張してもおかしくない場面だが、決勝で丸山を破り、相手の代表内定を阻止した。「あの試合の時は意外と何も考えなかったかな。負けるときは雑念がすごい。勝つときは自然と体が反応してくれますね」
 阿部は2017、18年の世界選手権を連覇、東京五輪で金メダルに最も近い選手と呼ばれた。だが、その後はスランプに陥り、けがも続いた。19年世界選手権の直接対決で丸山に負け、階級1番手の座を逆転された。阿部は「自分の2年間を1年間でひっくり返された。気持ち的に落ちてしまった」と振り返った。