瀬戸の海に輝く銀鱗 讃岐の春魚「サワラ」

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船尾から巻き上げられる網とともに、輝く銀鱗(ぎんりん)が次々と姿を現した。身が引き締まっているのが見て取れる。「讃岐の春魚(はるいお)」とも称されるサワラだ。
 春の漁解禁から間もない4月末、松岡勇樹さん(25)の漁船に同乗して、香川県さぬき市の小田漁港から播磨灘に向かった。午後6時、長さ1500メートルもある「流し刺し網」が船から海中に仕掛けられる。高速でまっすぐ泳ぐサワラが、海面に垂直に張られた網に刺さるのを狙う仕組みだ。
 1時間ほど経ち、網の引き揚げが始まった。松岡さんは網に刺さったサワラをはさみで手際よく取り外し、えらを切って血抜きをしていく。「かかるときはまとまってかかるので、面白い」。約3時間で収穫は68匹。体長1メートル近い大物もいた。
 漁船が港に戻った頃には、もう夜は更けていた。2匹ずつ箱に詰め、トラックで高松市の中央卸売市場に向かった。
 松岡さんによると、今年は例年にない豊漁といい、この日の漁は「平均よりはちょっと少ないかな」。一方で、「もっとみなさんに食べてもらって、高く売れるようになれば」。コロナ禍で低迷する魚価が気がかりという。
 香川県沖の備讃瀬戸や播磨灘でのサワラ漁が回復したのは10年ほど前。県によると、ピークの1986年に1077トンあった漁獲量は98年には18トンまで激減。県内の漁業者は、9月の休漁や漁網の網目の拡大、稚魚の放流などにいち早く取り組んだ。放流は瀬戸内海の11府県などでつくる協議会に広がり、2012年から20年まで続けられた。これらの成果もあり、11年以降、県内の漁獲量は300~500トン台にまで戻った。
 県水産課の湯谷篤さんは「サワラは瀬戸内海を回遊する広域魚種。各府県が協力して取り組まなければ、資源の回復は難しい。香川県が率先して進めてきたのは、漁業者の意識が高いからだろう」と推測する。
 香川県坂出市の老舗料亭「寿司傳(すしでん)」を訪ね、サワラを使った郷土料理「讃岐の押し抜き寿司」を作ってもらった。すし米とサワラやタコ、エビなど瀬戸内の魚介類を木型に詰めて抜き、煮アナゴ、エビのおぼろ、錦糸(きんし)卵、シイタケ、旬の野菜を乗せる。
 ひとくちほおばると、甘めのしゃりやおぼろと、酢で締めたサワラの濃厚な味が口の中でまざり合い、瀬戸内の春を感じた。
 香川の農村部では春になると、親戚にサワラ料理を振る舞う「春祝魚(はるいお)」という風習がある。嫁が里帰りする際に、サワラを1本持たせる光景もみられたという。
 寿司傳の三好伸幸社長(53)は「昔から香川の人にはなじみのある魚で、今が一番おいしい季節。刺し身やみそ漬け、しゃぶしゃぶでも味わえ、うちは白子でからすみも作っている」と話す。市内の商店街で毎月8日に開かれる「八日市」でも押し抜き寿司を販売するが、いつも行列ができ、すぐに完売するという。